9. ダビデの生涯の概観
Ⅰ 序説
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9. ダビデの生涯の概観
- 詩篇の世界を理解し、その中にある神の民の経験を共有するためには、それなりの知的背景が必要である。その一つはダビデの生涯の概観である。特にダビデの経験した10余年の荒野での生活、および<ダビデの幕屋>礼拝についての理解は詩篇を読む上で必須である。またイスラエルの歴史における神のストーリー(神の救いの出来事と、神のイスラエルに対する選びと契約に対する神の愛と真実)について、その概観を把握しておくことは必須である。
- ダビデの生涯において、彼がやがてイスラエルの理想的な王となるための素地や神の訓練など、それぞれの段階においてそれなりの意味があるが、本講義においては、ダビデが全イスラエルの王となってから彼がしたことに注目したい。
① ダビデの少年時代
② ダビデの荒野時代(10余年間)
③ ダビデの王としての時代(40年間)a. ヘブロン時代(7年間)
b. エルサレム時代(33年間)
c. 王位をソロモンに継承
(1) ダビデが王となって最初にしたこと
- それは、「契約の箱」をエルサレムへ移したことでる(Ⅰ歴代13章参照)。
① ダビデが全イスラエルの王となって最初にしたことは、エルサレムを攻略してシオンの要害を攻め取り、そこを全イスラエルの首都としたことである。その首都はダビデの町とも呼ばれた(Ⅰ歴代11:1~5)。そこは全イスラエルの政治的、宗教的な中心地となった。
② ダビデが王となってしたことの第二は、長い間失われていた神の「契約の箱」をエルサレムに移転しようとしたことである。これは神の直接的な指示ではなかったが、その思いを神はダビデの心に入れていた。ダビデは「私たちの神の箱を私たちのもとに持ち帰ろう。サウル時代には、これを顧みなかったから」(13:3)と民に呼びかけ、それを民との合意によって決行した。(Ⅰ歴代誌13:1~5)
③ ダビデは契約の箱をシオンの丘に運び、そこで毎日の日課として神への賛美礼拝が行なわれるように指示した。またギブオンにあるモーセの幕屋でも伝統的な礼拝に加えて、音楽を伴う賛美礼拝を行なうように指示した。(Ⅰ歴代誌16:37~43)
(2)「契約の箱」の理解
- ダビデが目指した礼拝改革を知る上で、「契約の箱」についての確かな理解をもつことは重要である。なぜなら、「契約の箱」は<モーセの幕屋>、<ダビデの幕屋>、および<ソロモンの神殿>に共通する<神の臨在>の象徴であり、その箱が置かれた〔至聖所〕は神のご自身の顕現とその御旨が啓示される「会見の場所」であったからである。モーセの幕屋における至聖所には、年に一度、大祭司のみが入り、贖いの蓋に血を塗り、イスラエルの民全体のための贖いをした。モーセだけは(後にモーセの後継者ヨシュアも)出入り自由であった。モーセの幕屋礼拝の中心は至聖所にある「契約の箱」であった。