****** キリスト教会は、ヘブル的ルーツとつぎ合わされることで回復し、完成します。******

3章16節


創世記 3章 16節

【新改訳2017】創世記3章16節

女にはこう言われた。「わたしは、あなたの苦しみとうめきを大いに増す。あなたは苦しんで子を産む。また、あなたは夫を恋い慕うが、彼はあなたを支配することになる。」

【聖書協会共同訳】創世記3章16節

神は女に向かって言われた。「私はあなたの身ごもりの苦しみを大いに増す。あなたは苦しんで子を産むことになる。あなたは夫を求め、夫はあなたを治める。」

טז אֶל־הָאִשָּׁה אָמַר
הַרְבָּה אַרְבֶּה עִצְּבֹונֵךְ וְהֵרֹנֵךְ בְּעֶצֶב תֵּלְדִי בָנִים
וְאֶל־אִישֵׁךְ תְּשׁוּקָתֵךְ וְהוּא יִמְשָׁל־בָּךְ׃ ס

ベレーシート

●14~15節は蛇に対する神の「呪いと福音」が語られ、16節は女に対して、17~19節は人に対する神の計画が述べられています。今回は女に対して神が語られた内容についてです。その内容は二つです。一つは「わたしは、あなたの苦しみとうめきを大いに増す。あなたは苦しんで子を産む」ということ、もう一つは「あなたは夫を恋い慕うが、彼はあなたを支配することになる」ということです。このことばはのろいのことばでは決してなく、福音なのです。なぜ福音なのか、それを考えていきましょう。

●文脈を流れを考えるなら、神が蛇と女と人にそれぞれ個別に語られたのか、それともある関連性の中で語られたのかによって解釈が大きく変わってきます。私は後者の流れで解釈していきます。つまり、女と蛇との間に置かれた敵意の歴史において、神が女に対してなされることが16節の内容だと考えます。「わたしは後のことを初めから告げ、まだなされていないことを昔から告げ、『わたしの計画は成就し、わたしの望むことをすべて成し遂げる』と言う。」(【新改訳2017】イザヤ 46:10)とあるように、神のご計画の「終わりの事」である御国(神と人が共に住むメシア王国、あるいは新しいエルサレム)が、「初め」である創世記1~3章の中にすでに明確に告げられているということです。

1. 16節は呪いのことばか、それとも福音か

●【新改訳チェーン式バイブル】の16節の脚注を見ると、「女への刑罰は二重である。第一は出産の苦しみであり、第二は夫への隷属である。」とあります。つまり、16節を女に対する刑罰だと説明しています。16節のみならず、17~19節までもが、「人は自分の蒔いたものを刈り取ることになる」という意味で、「女」も「人」も食べてはならない善悪の知識の木から食べたことに対する刑罰として解釈されているのです。

●その場合、女が刈り取った刑罰の第一は「あなたの苦しみとうめきを大いに増す。あなたは苦しんで子を産む」ということ。刑罰の第二は「あなたは夫を恋い慕うが、彼はあなたを支配することになる」ということになります。「彼はあなたを支配することになる」ということを、暴君的なイメージとして考えるならば、まさにこれは罰と言えます。果たして、16節はそのような意味なのでしょうか。文脈を考えるなら、15節には福音が告げられています。しかも原福音です。蛇と女、蛇の子孫と女の子孫との間には敵意が置かれますが、その結果は「彼(女の子孫)はおまえ(蛇)の頭を打ち、おまえは彼のかかとを打つ」とあります。その流れで16節を理解するとすれば、16節のことばは福音となるのです。厳密に言えば、「呪い」は「蛇」と「地」が受けており、女も人も呪われてはいないのです。

2. 「わたしは、あなたの苦しみとうめきを大いに増す」

●【新改訳2017】の「わたしは、あなたの苦しみとうめきを大いに増す」という訳は少々分かりにくい訳となっています。原文直訳は「あなたの苦痛とあなたの妊娠」(「イッツヴォーネーフ・ヴェヘーローネーフ」עִצְּבֹונֵךְ וְהֵרֹנֵךְ)となっています。これは「苦痛、苦しみ、労苦」を意味する「イッツァーヴォーン」(יִצָּבוֹן)と「妊娠、つわり、はらむこと」を意味する「ヘーラーヨーン」(הֵרָיוֹן)の二つの名詞が接続詞でつながっています。聖書協会共同訳では「あなたの身ごもりの苦しみ」と訳し、口語訳では「あなたの産みの苦しみ」と訳しています。口語訳は二詞一意による意訳ですが、分かりやすいです。

●口語訳で言えば「あなたの産みの苦しみ」を、「わたしは大いに増す」とあります。「大いに増す」と訳されたことばは、「増す」という意味の「ラーバー」(רָבָה)の不定詞と未完了をつなぎ合わせて「大いに増す」となっています。これはヘブル語特有の語法で随所に見られます(創2:16「思いのまま食べてよい」, 17「必ず死ぬ」)。

●出産は女にとって苦しみですが、聖書の中で苦しんた例としてはラケルぐらいで、出産は苦しみ以上に祝福であることが多いのです。ですから、ここで語られているのは神の刑罰としての出産の苦しみではなく、神のご計画の実現・成就の前には必ず「苦しみ」があるということです。

【新改訳2017】ヨハネの福音書16章20~21節
20 まことに、まことに、あなたがたに言います。あなたがたは泣き、嘆き悲しむが、世は喜びます。あなたがたは悲しみます。しかし、あなたがたの悲しみは喜びに変わります。
21 女は子を産むとき、苦しみます。自分の時が来たからです。しかし、子を産んでしまうと、一人の人が世に生まれた喜びのために、その激しい痛みをもう覚えていません。


●ここには出産の激しい痛みを、イェシュアが去って、その代わりに御霊が来ることのたとえとして語られています。イェシュアが去って助け主が来るためには、十字架の受難という苦しみを通らなくてはなりません。そのことを「出産の激しい痛み」にたとえているのです。このように、神のご計画の成就のためには、「女の子孫」であるイェシュアも、そしてイスラエルの残りの者も苦しみの経験を通ることが定まっているのです。

●「終わりの日」に聖霊は二度来られます。一度目は「ペテンテコステの」時で、この時に教会が誕生しました。二度目はキリストの再臨の前にイスラエルの残りの者たちに「恵みと嘆願の霊」が注がれる時です。これによってイスラエルの残りの民は民族的に救われるのです。


2. 「苦しんで子を産む」女とはだれか

●創世記1~3章に登場する「女」には重層的な意味が含まれています。したがって、この女を人の妻として理解するだけでは表面的な理解となってしまいます。特に、3章16節の「女」は、人の妻という生物学的な「女」ではなく、特に、イスラエルを意味しています。

【聖書の「男と女」という関係の重層的な意味】
男と女(夫と妻)
神と人
キリストと教会(花婿と花嫁)
神である主とイスラエル
新しいエルサレム

●Ⅰテモテへの手紙2章15節には「女は、慎みをもって、信仰と愛と聖さにとどまるなら、子を産むことによって救われます」とあります。ここの「女」も生物学的な女だと考えるなら、結婚しない女、あるいは、結婚しても子どもを産めない不妊の女、あえて産まない女は救われることがないということになり、不自然な解釈ということになってしまいます。

●「あなたは苦しんで子を産む」とは、終末に起こることについての預言的なことばなのです。
画像の説明

●それは、サタンの子孫と女の子孫との間に置かれた敵意の歴史において、「終わりの事」の中で起こる出来事の預言なのです。ヨハネの黙示録12章では「女は身ごもっていて、子を産む痛みと苦しみのために、叫び声をあげていた」とあり、創世記3章16節と結びつきます。その女が産んだ「男の子」こそ「イスラエルの残りの者たち」なのです。

【新改訳2017】ヨハネの黙示録12章1~17節
1 また、大きなしるしが天に現れた。一人の女が太陽をまとい、月を足の下にし、頭に十二の星の冠をかぶっていた。
(※「一人の女」とは「イスラエル」を意味し、その女が生む「男の子」こそ「イスラエルの残りの者」―勝利者―を意味します。)
2 女は身ごもっていて、子を産む痛みと苦しみのために、叫び声をあげていた
3 また、別のしるしが天に現れた。見よ、炎のように赤い大きな竜。それは、七つの頭と十本の角を持ち、その頭に七つの王冠をかぶっていた。
4 その尾は天の星の三分の一を引き寄せて、それらを地に投げ落とした。また竜は、子を産もうとしている女の前に立ち、産んだら、その子を食べてしまおうとしていた。
5 女は男の子を産んだ。この子は、鉄の杖をもってすべての国々の民を牧することになっていた。その子は神のみもとに、その御座に引き上げられた。
6 女は荒野に逃れた。そこには、千二百六十日の間、人々が彼女を養うようにと、神によって備えられた場所があった。
7 さて、天に戦いが起こって、ミカエルとその御使いたちは竜と戦った。竜とその使いたちも戦ったが、
8 勝つことができず、天にはもはや彼らのいる場所がなくなった。
9 こうして、その大きな竜、すなわち、古い蛇、悪魔とかサタンとか呼ばれる者、全世界を惑わす者が地に投げ落とされた。また、彼の使いたちも彼とともに投げ落とされた。
10 私は、大きな声が天でこう言うのを聞いた。「今や、私たちの神の救いと力と王国と、神のキリストの権威が現れた。私たちの兄弟たちの告発者、昼も夜も私たちの神の御前で訴える者が、投げ落とされたからである。
11 兄弟たちは、子羊の血と、自分たちの証しのことばのゆえに竜に打ち勝った。彼らは死に至るまでも自分のいのちを惜しまなかった。
12 それゆえ、天とそこに住む者たちよ、喜べ。しかし、地と海はわざわいだ。悪魔が自分の時が短いことを知って激しく憤り、おまえたちのところへ下ったからだ。」
13 竜は、自分が地へ投げ落とされたのを知ると、男の子を産んだ女を追いかけた。
14 しかし、女には大きな鷲の翼が二つ与えられた。荒野にある自分の場所に飛んで行って、そこで一時と二時と半時の間、蛇の前から逃れて養われるためであった。(※「一時と二時と半時の間」とは七年間の患難時代の後半の三年半です)
15 すると蛇はその口から、女のうしろへ水を川のように吐き出し、彼女を大水で押し流そうとした。
16 しかし、地は女を助け、その口を開けて、竜が口から吐き出した川を飲み干した。
17 すると竜は女に対して激しく怒り、女の子孫の残りの者、すなわち、神の戒めを守り、イエスの証しを堅く保っている者たちと戦おうとして出て行った。


●5節の「男の子」はイェシュアのことではありません。なぜなら、この男の子を産んだ後に、女は大きな鷲の翼が二つ与えられて、荒野にある自分の場所に飛んで行って三年半の間隠されるイスラエルの民だからです。

●11節の「兄弟たち」とは、5節の「男の子」と17節の「女の子孫の残りの者」(神の戒めを守り、イエスの証しを堅く保っている者たち)と同義です。彼らは「イエスの証しと神のことばのゆえに首をはねられた人々」(黙20:4)であり、やがてメシア王国ではキリストと共に王として治める勝利者でもあるのです。

【新改訳2017】ヨハネの黙示録20章4節
・・・また私は、イエスの証しと神のことばのゆえに首をはねられた人々のたましいを見た。彼らは獣もその像も拝まず、額にも手にも獣の刻印を受けていなかった。彼らは生き返って、キリストとともに千年の間、王として治めた。

●メシア王国ではキリストと共同の王となって支配する者たちがいます。一つは教会であり、もう一つはイスラエルの残りの者です。

①教会
【新改訳2017】ヨハネの黙示録2章26~27節
26 勝利を得る者、最後までわたしのわざを守る者には、諸国の民を支配する権威を与える。
27 彼は鉄の杖で彼らを牧する。土の器を砕くように。
28 わたしも父から支配する権威を受けたが、それと同じである。・・・

②イスラエルの残りの者
【新改訳2017】ヨハネの黙示録12章5節
女は男の子を産んだ。この子は、鉄の杖をもってすべての国々の民を牧することになっていた。

【新改訳2017】ヨハネの黙示録20章4節
・・彼らは生き返って、キリストとともに千年の間、王として治めた。

●「苦しんで子を産む」という表現は、出産において当然のことだと思われるかもしれませんが、この表現は聖書の中でここ一箇所だけです。「子を産む」という表現は数多くありますが、その場合の多くは祝福として描かれているのです。しかし、「終わりの日に」「その日には」と表現される終末の時に神のご計画が実現・成就されるために「女である神の民イスラエル」が「苦しんで子を産む」ということが起こるのです。

3. 神の民イスラエルの将来(未来)には希望がある

●旧約の預言者たちが語っている「その日」、あるいは「終わりの日に」(「ベアハリート」בְּאַחֲרִית)は、すなわち「将来」(「アハリート」אַחֲרִית)には、大いなる望み(「ティクヴァー」תִּקְוָה)があります。

①【新改訳2017】エレミヤ書31章17節
あなたの将来には望みがある。──【主】のことば──あなたの子ら(בָנִים)は自分の土地(=「領土」גְּבוּל)に帰って来る。
【新共同訳】エレミヤ書31章17節
あなたの未来には希望がある、と主は言われる。息子たち(בָנִים)は自分の国に帰って来る

②【新改訳2017】ゼカリヤ書 10章9節
わたしは彼らを諸国の民の間にまき散らすが、彼らは遠く離れてわたしを思い出し、その子らとともに生き延びて帰って来る

③【新改訳2017】イザヤ書 10章20~22節
20 その日になると、イスラエルの残りの者、ヤコブの家の逃れの者は、もう二度と自分を打つ者に頼らず、イスラエルの聖なる方、【主】に真実をもって頼る。
21 残りの者、ヤコブの残りの者は、力ある神に立ち返る
22 たとえ、あなたの民イスラエルが海の砂のようであっても、その中の残りの者だけが帰って来る

④【新改訳2017】イザヤ書 66章7~13節
7 「彼女は産みの苦しみが来る前に産み、陣痛が来る前に男の子を産み落とす。
8 だれが、このようなことを聞き、だれが、これらのことを見たか。地は一日の苦しみで産み出されるだろうか。国は一瞬にして生まれるだろうか。ところがシオンは、産みの苦しみと同時に子たちを産む。
9 わたしが胎を開きながら、産ませないだろうか。──【主】は言われる──わたしは産ませる者なのに、胎を閉ざすだろうか。──あなたの神は仰せられる。」
10 エルサレムとともに喜べ。すべて彼女を愛する者よ、彼女とともに楽しめ。すべて彼女のために悲しむ者よ、彼女とともに喜び喜べ。
11 あなたが彼女の慰めの乳房から飲んで満ち足り、その豊かな乳房から吸って喜びを得るために。
12 【主】はこう言われる。「見よ。わたしは川のように繁栄を彼女に与え、あふれる流れのように国々の栄光を与える。あなたがたは乳を飲み、脇に抱かれ、膝の上でかわいがられる。
13 母に慰められる者のように、わたしはあなたがたを慰める。エルサレムであなたがたは慰められる。


●ここでの「彼女」(母)は「エルサレム」(シオン)を指し、「男の子」は「イスラエルの残りの者たち」を指します。
●7節の「彼女は産みの苦しみが来る前に産み、陣痛が来る前に男の子を産み落とす」はキリスト初臨の時であり、8節の「シオンは、産みの苦しみと同時に子たちを産む」とはキリスト再臨前の時です。真のイスラエルの民は、反キリストによる大患難という苦しみの中で生まれるのです。それは「恵みと嘆願の霊」(ゼカリヤ12:10)によって、一瞬にして生まれるのです。


4. 「女は夫を恋い慕い、夫は女を支配する」とは

●16節後半の「また、あなたは夫を恋い慕うが、彼はあなたを支配することになる。」という部分を刑罰として解釈するなら、女は暴君的な夫に支配され、反抗することができなくなるという意味になります。しかし、ここでも「女」がイスラエルの民を指すとすれば、イスラエルは夫である神を恋い慕い、神もイスラエルを愛をもって支配する(愛する)ようになると解釈できます。これはまさに御国の福音です。

●「恋い慕う」と訳された「テシューカー」(תְּשׁוּקָה)は名詞です。創世記3章16節の他に、4章7節、そして雅歌7章10節の3回のみです。創世記3章16節では「女が夫を」、創世記4章7節では「罪がカインを」、雅歌7章10節では「あの方が私を」恋い慕うのです。カインは神から離れていく者となりますが、ここでは雅歌にある「恋い慕う」を見てみます。

【新改訳2017】雅歌7章10節
私は、私の愛する方のもの。あの方は私を恋い慕う。

画像の説明

●この関係が実現することこそ「御国の福音」なのです。女は「夫を恋い慕う」という走り寄るほどの激しい愛を意味します。同時に、夫である神の欲求が私の上にあるということが、「夫はあなたを支配する」ということばの意味なのです。

2020.7.24
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