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主の日は近い。・・その日が来る。

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1. 主の日は近い。・・その日が来る。

【聖書箇所】 ヨエル書 1章1~20節

ベレーシート

  • 「ヨエル書は、表現と主題の両面において人目を引くものがある。真に迫った描写で、ヨエルと肩を並べることのできる者はほとんどいない。災害に襲われた国土、いなごの大軍の来襲、裁きの谷にすべての国民が集められる終末の時についての描写は、筆力満点の傑作である。」(「旧新約聖書全解」434頁)とする J・シンドロー・バクスターの評価を、ヘブル語を通してどれだけ真実なものであるかを実際に味わってみたいと思います。
  • ヨエル書の鍵語は「いなご」と「主の日」です。この二つの鍵語がどう結び付くのか、そしてヨエルはそこにどんな希望を見出したのか。そこに焦点を当ててみたいと思います。

1. 前代未聞のいなごの来襲による大災害の警告

  • ヨエル書においては「いなご」のイメージは強烈です。いなごによる災害が未曾有のものであることが以下のような表現で強調されています。

    【新改訳改訂第3版】ヨエル書1章4節
    かみつくいなごが残した物は、いなごが食い、いなごが残した物は、ばったが食い、ばったが残した物は、食い荒らすいなごが食った。

(1) 「いなご」の種類と名称

  • ここには四種類のいなごが記されています。すべて冠詞付です。
    画像の説明
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  • ヨエル書においては「いなご」は重要な語彙です。それゆえ、この「いなご」について調べておきたいと思います。『聖書動物大事典』(国書刊行会、初版2002年)には「イナゴ、バッタ」について26頁が割かれ、そこには専門的な説明が詳細に記されています。そこで取り上げられている「いなご」を参考にしながら、順次、八種類の用語を紹介すると、次のようになります。

(1) 「アルベ」(אַרְבֶּה)、貪食で最も破壊的な被害を与えます。またその増殖力が特徴。「アルベ」という語は「増える、非常にたくさんいる」を意味する「ラーヴァー」(רָבָה)に由来し、大規模な荒廃を引き起こすすべてのバッタを指す意味で用いられているようです。専門的には、翅(はね)のある直翅類。聖書の中では最も多く登場する語彙です。24回。脚注
●「新聖書大辞典」(キリスト新聞社)では「移住いなご」。


(2) 「ハーガーヴ」(חָגָב)も壊滅的な大被害を与えるバッタの種を表わします。第四回目の脱皮後、ただちに飛び立ち、太陽を覆うほどになります。多くのバッタの総称とも言われます。聖書では、レビ記11章22節、民数記13章33節、Ⅱ歴代誌7章13節、伝道者の書12章5節、イザヤ書40章22節に登場します。
●「新聖書大辞典」(キリスト新聞社)では「小いなご」。


(3) 「ハルゴール」(חַרְגֹּל)は、レビ記11章22節にのみ登場します。「それらのうち、あなたがたが食べてもよいものは次のとおりである。いなご(אַרְבֶּה)の類、毛のないいなご(סָלְעָם)の類、こおろぎ(חַרְגֹּל)の類、ばった (חָגָב)の類である。」とあるように、三番目に記されている「こおろぎ」の類いです。22節にある四つの種はみな、「翅足を持ち、それで地上を飛び跳ねる種」です。これらはみな食べることが許されています。
●「新聖書大辞典」(キリスト新聞社)では「大いなご」。


(4) 「サールアーム」(סָלְעָם)はレビ記11章22節の二番目に記されている「毛のないいなご」の類いです。新共同訳では「羽がないいなご」と訳されています。レビ記11章22節にのみ登場します。
●「新聖書大辞典」(キリスト新聞社)では「遍歴いなご」。


(5) 「ガーザーム」(גָּזָם)は、ヨエル書1章4節、同2章25節、アモス書4章9節に登場します。このバッタの幼虫(青虫、毛虫、いも虫)がイチジクやオリーブなどの果樹の葉を食べて被害を与えます。
●「新聖書大辞典」(キリスト新聞社)では「かみ食らういなご」で、「かみ切るもの」の意味。


(6) 「ゴ―ヴ」(גּוֹב)は聖書の4箇所で登場しますが、Ⅱサムエル21章18, 19節は地名としての「ゴブ」です。ナホム書3章17, 17節の「ゴーヴ」は大形のバッタの幼虫期、ないしは若虫期のものと言われます。ナホム書3章17節には「あなたの衛兵は、いなご(אַרְבֶּה)のように、あなたの役人たちは、群がるいなご(גּוֹב גּוֹבָי)のように、寒い日には城壁の上でたむろし、日が出ると飛び去り、だれも、どこへ行くか行く先を知らない。」とあるように、「ゴーヴ」(גּוֹב)だけでも「群がるいなご」を意味しますが、それが二重に重ねられています。幼虫期や若虫期のバッタは成虫以上に食欲が盛んで、大きな被害を与えるとされています。この「ゴーヴ」のイメージが、ナホム書では神の「衛兵」の比喩として用いられています。


(7) 「イェレク」(יֶלֶק)は、聖書で9回(詩篇105:34、エレミヤ51:14, 27、ヨエル1:4, 4、2:25、ナホム3:15, 15, 16)登場します。草を食い切り、なめ尽くす、バッタの幼虫です。ヨエル書1章4節に「いなご(アルベ)が残した物は、ばった(イェレク)が食い」とありますが、翅のあるアルベが飛び去ったあとに、その幼虫が現われて残りを食い尽くすことは、実際にあり得る話です。
●「新聖書大辞典」(キリスト新聞社)では「とびいなご」。原語は「なめるもの」「たたむもの」の意味で、おそらく、小さな翅をたたんでいる状態の、若い発育中のばったさすのであろうと説明しています。


(8)「ハースィール」(חָסִיל)は新改訳では「食い荒らすいなご」と訳され、聖書では6回(Ⅰ列王8:37、Ⅱ歴代6:28、詩篇78:46、イザヤ33:4、ヨエル1:4、2:25)登場します。この「ハースィール」は、ある種のバッタ、その幼虫であるとされています。いずれにしても、訳語の「食い荒らすいなご」から連想されるのは、大喰らいのいなごの幼虫ということになります。
●「新聖書大辞典」(キリスト新聞社)では「滅ぼすいなご」。

  • このように、一口に「いなご」と言っても、多くの種類があることが分かります。ヨエル書1章4節に登場する四種の「いなご」とは、順に以下の通りです。

    (5)の「ガーザーム」(גָּזָם)
    (1)の「アルベ」(אַרְבֶּה)
    (7)の「イェルク」(יֶלֶק)
    (8)の「ハースィール」(חָסִיל)

(2) 「いなご」の大軍の来襲が意味すること

  • ヨエル書の「いなご」は、私たちの想像を絶するようないなごの大軍です。砂漠と草原地帯の乾燥した平原で、一定の熱さと湿気があり、ある条件を満たすと、突然爆発的にその数を増し群れとなって周囲に広がって行きます。そして雲のように他の地域に移動しはじめるのです。何千万、何億といういなごが雲のように来襲することで大災害をもたらすその経験がベースとなって、神の警告的な預言がなされているのです。


2. 主の日は近い、その日が来る。

  • その警告的な預言とは、1章6節にあるように、「一つの国民がわたしの国に攻め上った。力強く、数えきれない国民だ。その歯は雄獅子の歯、それには雄獅子のきばがある。」とあるというものです。「一つの国民」と「力強く、数えきれない国民」は同義です。いずれも集合名詞で単数ですが、「国民」と訳された「ゴーイ」(גּוֹי)は象徴的な意味において「いなごの群れ」を意味します。つまり、外国(異邦人)の侵略者たちによる破滅的な神のさばきがもたらされるという警告です。15節ではそのさばきは「その日」「主の日」と呼ばれます。このことを後の世代に伝えよと命じられているのです。

【新改訳改訂第3版】ヨエル書1章3節
これをあなたがたの子どもたちに伝え、子どもたちはその子どもたちに、その子どもたちは後の世代に伝えよ。

  • 4節と同様の修辞法です。この修辞法の名称は分かりませんが、とても重要な事柄を忘れることなく、次の世代、その次の世代にも周知徹底させようとする呼びかけです。伝えるべき「これ」とは、いなごの大軍の来襲に例えられる「力強く、数えきれない国民」(1:6)の来襲です。それは、アッシリヤ、バビロン、ペルシャ、ギリシャ、ローマ、そして最後は反キリストによる勢力が考えられます。神のご計画においては、歴史の中で登場する強国はすべて、終わりの時に来襲する反キリストの型なのです。それゆえ、ヨエルの警告は現代にとってもこれから成就する預言なのです。
  • それゆえヨエルは、未曾有の出来事が襲う「主の日」に備えて幾つかの命令をしています。その命令は以下のようにパラレリズムの修辞法によって表わされています。

    (1) 2節
    長老たちよ。これを聞け。
    この地に住む者もみな、耳を貸せ。

    (2) 5節
    酔っぱらいよ。目をさまして、泣け。
    すべてぶどう酒を飲む者よ。泣きわめけ。
    甘いぶどう酒があなたがたの口から断たれた(預言的完了形)からだ。
    ●「泣け」「泣きわめけ」という悲嘆用語の命令形が多く見られます。
    5節の「泣け」(「バーハー」בָּכָה)、「泣きわめけ」(「ヤーラル」יָלַל)、
    8節の「泣き悲しめ」「アーラー」אָלָא)
    11節の「泣きわめけ」(「ヤーラル」יָלַל)
    13節の「悲しめ」(「サーファド」סָפַד)、「泣きわめけ」(「ヤーラル」יָלַל)
    ●これらはやがて必ず外敵が来襲するからです。いなごの大軍に象徴される恐ろしい侵略と荒廃を予想させます。

    (3) 14節
    断食の布告をし、きよめの集会のふれを出せ。
    長老たちとこの国に住むすべての者を、あなたがたの神、【主】の宮に集め、【主】に向かって叫べ。
    ●これは「悔い改め」をうながす諸命令です。

  • ヨエル書においては「主の日」(「ヨーム・アドナイ」יוֹם יהוה)ということばが5回登場します(1:15、2:1, 11, 31、3:14)。それに準じる「その日」(「ヨーム・ハフー」וֹיּם הַהוּא)ということばは6回(1:15, 15、2:1, 29、3:1, 18)です。訳語は同じでも、原語は指示代名詞付きの単数、複数と、異なっています。「主の日」こそ、ヨエル書の主題であり、それは未曾有の神のさばきと、その後に来る終末の回復の希望が同時に現われる日なのです。

脚注
●出エジプトの前に、エジプトに下された第八番目の災害がいなごの大群によるものでした。そのいなごの大軍が「アルベ」(אַרְבֶּה)です。

【新改訳改訂第3版】出エジプト記10章12~19節
12 【主】はモーセに仰せられた。「あなたの手をエジプトの地の上に差し伸ばせ。いなごの大群がエジプトの地を襲い、その国のあらゆる草木、雹の残したすべてのものを食い尽くすようにせよ。」
13 モーセはエジプトの地の上に杖を差し伸ばした。【主】は終日終夜その地の上に東風を吹かせた。朝になると東風がいなごの大群を運んで来た。
14 いなごの大群はエジプト全土を襲い、エジプト全域にとどまった。実におびただしく、こんないなごの大群は、前にもなかったし、このあとにもないであろう。
15 それらは全地の面をおおったので、地は暗くなった。それらは、地の草木も、雹を免れた木の実も、ことごとく食い尽くした。エジプト全土にわたって、緑色は木にも野の草にも少しも残らなかった。
16 パロは急いでモーセとアロンを呼び出して言った。「私は、おまえたちの神、【主】とおまえたちに対して罪を犯した。17 どうか今、もう一度だけ、私の罪を赦してくれ。おまえたちの神、【主】に願って、主が私から、ただこの死を取り除くようにしてくれ。」18 彼はパロのところから出て、【主】に祈った。
19 すると、【主】はきわめて強い西の風に変えられた。風はいなごを吹き上げ、葦の海に追いやった。エジプト全域に、一匹のいなごも残らなかった。


2015.1.7


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