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アダム系図(セツの系譜)の中に秘められたメッセージ

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4. アダム系図(セツの系譜)の中に秘められたメッセージ

【聖書箇所】創世記 5章1節~6章9節

はじめに

  • 創世記5章には「アダムの系図」があります。アダムからノアまでの系図が記されています。「聖書で系図が登場するタイミングは、救済史的に大変大きな意味があります。何故なら系図は、救済史の新たな転換期や分岐点を迎える度に整理されているからです。聖書の系図では、最も重要な人物が最後に記録され、その人物を起点に新しい時代がスタートしています。」(朴潤植著「神の救済史的経綸の中から見る創世記の系図」、イーグレース発行、2009、76頁参照)
  • 一見、無味乾燥とも思える系図の中に、実は秘められたメッセージが隠されています。そのいくつかを引き出してみたいと思います。以下の表は、前掲書の朴潤植師の助けを借りて自分なりに図を作ってみました。固有名詞である名前の表記については聖書によって実に様々です。この表では新改訳の表記にしてあります。

アダムの系図

1. アダムの系図で際立つ二つの人物(エノクとノア)

創世記 5 章に登場する 10 人の名前が意味するもの 」についてはこちらを参照

  • 創世記5章にある「アダムの系図」では、アダムからはじまり、10代目のノアで終わっています。従ってノアを起点に新しい時代に入っていく流れとなっています。上の表を見るなら、最初の人アダムは9代目のレメクの時代まで生きていたことになります。系図では長子の名前だけが記されていますが、それぞれの世代の族長が「息子、娘たちを生んだ」とありますから、かなりの人数になっていったと思われます。
  • カインの系譜とは別に、主の御名によって祈るセツの系譜でははっきりと年齢が記録されており、世代が途切れることなく継続していることが分かります。しかも長寿が与えられています。エノクを除いた9代目までの平均寿命はなんと912歳です(前掲書、族長たちの年代記チャート参照)。長寿は神の祝福のしるしです。
  • ところで、「アダムの系図」の中でひときわ目立つ二人の人物がおります。それは「エノク」と系図の最後に登場する「ノア」です。この二人に共通する特徴は、彼らが「神とともに歩んだ」(5:22、6:9)という点です。ヘブル人への手紙11章には称賛されるべき旧約時代の信仰者たちが紹介されています。そして、エノクもノアもそこで取り上げられていますが、エノクの場合もノアの場合も、彼らはその信仰のゆえに神に喜ばれていたと記されています。「信仰が神に喜ばれていた」のは、創世記の表現で言うならば、彼らが「神とともに歩んだ」からだと言えます。神を喜ばせた「神とともに歩む」という生き方がどういう生き方なのかを心に留めて瞑想することは大いに益があると思います。
  • 「だれが、だれと、いるのか、あるいは歩むのか」という場合、聖書では二つのパターンが見られます。 

    【パターンA】・・「主が、彼(固有名詞)とともに・・」
    【パターンB】・・「彼(固有名詞)は、主(神)とともに」

  • 何が違うかと言えば、それは主語が違うということです。主語が違うことは大きな問題です。【パターンA】は数の点でいうならば、【パターンB】と比べて断突に多いのです。

【パターンAの例】

(例1) 創世記39:2, 3
主がヨセフとともにおられたので、彼は幸運な人となり、そのエジプト人の主人の家にいた。彼の主人は、主が彼とともにおられ、主が彼のすることすべてを成功させてくださるのを見た。

(例2) 創世記26:24
主はその夜、彼(イサク)に現れて仰せられた。「わたしはあなたの父アブラハムの神である。 恐れてはならない。わたしがあなたとともにいる。

(例3) マタイ1:18
見よ。神が私たちとともにおられる。(「インマヌエル」の意味、)

(例4) 詩篇46篇
万軍の主はわれらとともにおられる。


以上のように、神がともにおられることは神の恵みであり祝福です。それはその人が意識しても、しなくてもある神の恩寵と言えます。

【パターンB】の例

(例1) 創世記5:22, 24
エノクはメトシェラを生んで後、三百年、神とともに歩んだ。・・エノクは神とともに歩んだ。神が彼をとられたので、彼はいなくなった。 

●エノクが65歳のとき、息子メトシェラの誕生が彼の人生を変える神のチャンスとなりました。最初の子メトシェラが生まれた時から「彼は神とともに歩む」生涯がはじまったということは、それまでの65年間は「神とともに歩む」ことを知らなかった人生であったことを意味します。


(例2) 創世記6:9
ノアは、正しい人であって、その時代にあっても、全き人であった。ノアは神とともに歩んだ。         

●実は、この【Bパターン】は聖書においてはきわめて少ないのです。旧約ではエノクとノアにのみある表現です。新約では1箇所、パウロが「私たちは神とともに働く」という表現がコリント書に出てきます。しかし彼らが「神とともにいる」ではなく、「彼らが、神とともに歩んだ、働いた」と書かれています。

  • 旧約聖書の預言書にミカ書というのがありますが、その書には次のようなことばが記されています。「主はあなたに告げられた。 人よ。何が良いことなのか。 主は何をあなたに求めておられるのか。 それは、・・・あなたの神とともに歩むことではないか。」(ミカ 6:8 )
  • 神が私たちとともにおられることは神の祝福としてあるのですが、ここでは、むしろ、人が神とともに歩むことが強調されています。エノク、ノアの場合、「神がエノクやノアとともに歩んだ」のではなく、むしろ「エノクやノアが神とともに歩んだ」 です。この違いはなんでしょう。ここでの「歩んだ」という動詞は「ハーラフ」の強意形再帰態(ヒットパエル)が使われており、自分自身から歩むことを意味しています。つまり信仰の「主体的、自覚的」なあり方が特記されているということです。

2. なぜ、メトシェラの年齢は最長なのか

  • メトシェラは聖書によれば次のように記述されています。
    「メトシェラは187年生きて、レメクを生んだ。メトシェラはレメクを生んで後、782年生き、息子、娘たちを生んだ。メトシェラの一生は969年(覚えやすい)であった。こうして彼は死んだ。」 969歳は聖書に登場する人物の中で最長年齢です。ここでなぜメトシェラが聖書の中で最年齢なのかを考えてみたいと思います。
  • その前に、エノクの息子メトシェラ(「メトゥーシェラハ」מְתוּשֶׁלַח)という名前の「メト」は「死、死者」(「マーヴェット」מָוֶת)を意味します。「シェラ」は「シャーラハ」(שָׁלַחで「送る」という意味です。つまり「メトシェラ」とは「彼の死後に送られる」という意味です。そんな名前を息子につけるに至ったエノク、しかもそれがエノクの生涯の転機となることと関係があるのかも知れません。私はおそらく神の啓示がエノクにあったのではないかと考えています。というのも、エノクは息子が死んだ後に起こる何かの出来事が神から啓示されたことによって、彼の生き方がそれまでとは一変して、自ら「神とともに歩む」という転機をもたらしたのではないかと考えます。とすれば、メトシェラが死んだ後に起こる出来事とはいったい何なのでしょうか。
  • メトシェラが生きている間に、息子のレメクは182歳のときに息子のノアを生みます。そのノアが500歳になったときセム、ハム、ヤペテ息子たちを生みます。そしてノアが600歳の時に大洪水による神のさばきが起こります(7:6,11)。メトシェラの生涯は最長の969年です。この数字は【187182600=969】 。メトシェラの死と大洪水による神のさばきは同じ年なのです。「メトシェラ」という名前か意味するところの「彼の死後に送られた神のさばき」とは、まさに「大洪水」というかたちで起こったのです。
  • 「なぜ、メトシェラの年齢は最長なのか」という問いについて、その答えは、大洪水による神のさばきはメトシェラが死んだ年に起こっています。つまり、神はさばきを父エノクにメトシェラが生まれた時に啓示したときから、実に969年間、神の子らが神に立ち返るチャンスとして忍耐に忍耐して引き伸ばされた期間だと考えることができるのではないかと思います。

3. 悔みと心の痛みを伴う神のリセット

創世記6章6節
それで主は、地上に人を造ったことを悔やみ、心を痛められた。
そして主は仰せられた。『わたしが創造した人を地の面から消し去ろう。・・わたしは。これらを造ったことを残念に思うからだ。』

  • しかし、セツから始まった主の御名を呼ぶ系譜は、時代が進むに連れて地上で増え広がって行きました。そしてエノクの生きていた時代には神が人を創造したことを悔やませる事態までに至っていました。その事態とは以下のことです。、

    ①「神の人ら」(「ヴェネー・ハーエローヒーム」=堕落した天使たち)が、おそらくセツの系譜とかかわりを持つようになり、神を信じる娘たちを妻とするようになったことで、「ネフィリム」(נְפִלִים)が生まれた。
    ※この逆の解釈。すなわち、「神の人ら」(「ヴェネー・ハーエローヒーム」=セツの子孫)が、カインの系譜にある美しい娘たちとかかわりを持つようになり、神を信じない娘たちを妻とすることで彼らの影響を受けるものとなり、「その心に計るとがみな、いつも悪いことだけに傾くようになった」。
    ※その他の解釈「ヴェネー・ハーエローヒーム」を「ハンネフィリーム」の代用語という解釈があります。つまり「暴力で人を支配する者たち」という意味です。「ネフィリーム」は「弱者を虐げる者、暴力で人を支配する者」で、語源となる動詞「ナーファル」(נָפַל)には「襲う、武力を使って人を屈服させる、倒す」という意味もあるからです。この解釈には説得力があります。
    ②地上では神の子らの悪が加速度的に増大し、やがて主は人を造ったことを悔やまれ、心を痛められるに至ったこと。
    ③地上のものがノアを基点として神によってすべてリセットされるべく計画を神が建てられたこと。
    ④その最大の要因は原始福音(創世記2:15)にあるように、へびのかしらをくだくメシア預言が妨げられないようにするためだと考えられます。

  • 最後に、6章6節にある二つの動詞に注目したい。
    (1) 「悔やむ」と訳されたヘブル語は「ナーハム」(נָחַם)で、6章7節の「残念に思う」と5章29節の「慰めを与える」と訳されたヘブル語の語根は同じです。気落ちする意味と慰めの意味を含んだ動詞です。まさにこの慰めを与える人物こそ、「ノア」(「ノーアッハ」נֹחַ)なのです。6章8節に「ノアは、主の心にかなっていた」とありますが、直訳では「ノアは主の目に恵みを見出した」となっています。これはヘブル的慣用句であり、「ノアは主に受け入れられていた」という意味です。救済史的経綸における新しい時代の主役は、このノアとその家族にゆだねられることになったのです。なぜなら、ノアは「神とともに歩んだ」からです。

(2)「心を痛められた」と訳されたヘブル語は「アーツァヴ」(עָצַב)で、自ら苦しみと悲しみで心がいっぱいになることを意味します。

むすび

  • アダムの系図の中にいる「エノク」は神のさばきの啓示をメトシェラの誕生の時に受けた者として、また「ノア」は神のさばきの後に来る新しい時代を引き受ける者として、それぞれ、「神とともに歩む」という主体的な信仰を持って生きた人物だったと言えます。彼らは人々の目に見えるような特別な事業をしたのではありませんでした。むしろ、彼らは自分の時代の中で、人々が神から離れていく時代の流れの中で、「神とともに生きる」という大事業をやってのけたのです。私たちも「エノク」と「ノア」の霊性に学びつつ、今を生きたいと思います。

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