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なぜ、イェシュアが大工の息子なのか


3. なぜ、イェシュアが大工の息子なのか

ベレーシート

●今回の「2019セレブレイト・スッコート」に出されたNさん(小5)の質問は、「なぜ、ヨセフは⼤⼯でなければならなかったのか」でしたが、この質問を「なぜ、イェシュアが大工の息子なのか」という質問に変えて考えてみたいと思います。イェシュアの誕生物語でヨセフのことが登場しますが、ヨセフがどんな仕事をしていたかは記されていません。しかし、ヨセフの仕事が大工であったこと、そしてイェシュアもその大工の息子であったと分かるのは、以下の二箇所からだけです。

【新改訳2017】マタイの福音書13章53~57節
53 イエスはこれらのたとえを話し終えると、そこを立ち去り、
54 ご自分の郷里に行って、会堂で人々を教え始められた。すると、彼らは驚いて言った。「この人は、こんな知恵と奇跡を行う力をどこから得たのだろう。
55 この人は大工の息子ではないか。母はマリアといい、弟たちはヤコブ、ヨセフ、シモン、ユダではないか。
56 妹たちもみな私たちと一緒にいるではないか。それなら、この人はこれらのものをみな、どこから得たのだろう。」
57 こうして彼らはイエスにつまずいた。

【新改訳2017】マルコの福音書6章2~3節
2 安息日になって、イエスは会堂で教え始められた。それを聞いた多くの人々は驚いて言った。「この人は、こういうことをどこから得たのだろう。この人に与えられた知恵や、その手で行われるこのような力あるわざは、いったい何なのだろう。
3 この人は大工ではないか。マリアの子で、ヤコブ、ヨセ、ユダ、シモンの兄ではないか。その妹たちも、ここで私たちと一緒にいるではないか。」こうして彼らはイエスにつまずいた。

●「大工」という仕事が、ナザレの人々にとっては特別な仕事ではなく、生活していくための普通の職種であったことが分かります。ナザレの人々にとっては、「大工」というイメージと、イェシュアの語る知恵と不思議な力とのあまりの格差に驚き、イェシュアにつまずいたようです。

●イェシュアが大工の息子であったのは、決してどうでもよいことではなく、そこに神の隠された秘密があると思われます。なぜなら、「大工」のギリシア語は「テクトーン」(τέκτων)、ヘブル語では「ハーラーシュ」(חָרָשׁ)といって、木工職人だけでなく、石工や金属職人なども含まれるからです。イェシュアの来臨の目的は、神と人とが共に住む家を造るためであったことを考えるなら、「大工」という仕事は蔑視される仕事ではなく、むしろ大きな意味を含んでいるのです。ちなみに、文語訳は「木匠」と書いて「たくみ」と訳しています。名訳だと思います。

1. 神の家を建てるという視点からの「大工」の持つ意味

●ヨハネの福音書1章14節に「ことばは人となって、私たちの間に住まわれた。私たちはこの方の栄光を見た。父のみもとから来られたひとり子としての栄光である」とあります。「住まわれた」という語彙は、「スケーノオー」(σκηνόω)で「幕屋を張る」という意味です。その語彙のごとく、ヨハネの福音書の構成にはモーセの幕屋の構造が隠されているのです。2章13節以降では、イェシュアのエルサレムでの宮きよめの話があります。イェシュアは宮の中で、牛や羊や鳩を売っている者たちと、座って両替をしている者たちを見て、細縄でむちを作って、羊も牛もみな宮から追い出し、両替人の金を散らして、その台を倒し、鳩を売っている者たちに言わました。「それをここから持って行け。わたしの父の家を商売の家にしてはならない。」と(2:14~16)。そしてこうも言われました。「この神殿を壊してみなさい。わたしは、三日でそれをよみがえらせる」(:19)と。これはイェシュアが来られたのが、神と人とが共に住む「神殿」(幕屋)を回復するためであるということが宣言されているのです。

●出エジプト記の「幕屋の建造」の箇所を見てみましょう。

【新改訳2017】出エジプト記31章1~11節
1 【主】はモーセに次のように告げられた。
2 「見よ。わたしは、ユダ部族に属する、フルの子ウリの子ベツァルエルを名指して召し、
3 彼に、知恵と英知と知識とあらゆる務めにおいて、神の霊を満たした。
4 それは、彼が金や銀や青銅の細工に意匠を凝らし、
5 はめ込みの宝石を彫刻し(חֲרֹשֶׁת)、木を彫刻し、あらゆる仕事をするためである。
6 見よ。わたしは、ダン部族に属する、アヒサマクの子オホリアブを彼とともにいるようにする。わたしは、すべて心に知恵ある者の心に知恵を授ける。彼らは、わたしがあなたに命じたすべてのものを作る。
7 すなわち、会見の天幕、あかしの箱、その上の『宥めの蓋』、天幕のすべての備品、
8 机とその備品、きよい燭台とそのすべての器具、香の祭壇、
9 全焼のささげ物の祭壇とそのすべての用具、洗盤とその台、
10 式服、すなわち、祭司アロンの聖なる装束と、その子らが祭司として仕えるための装束、
11 注ぎの油、聖所のための香り高い香である。彼らは、すべて、わたしがあなたに命じたとおりに作らなければならない。」

●ここには、幕屋で使われるすべての用具を造る特別な人物がいたことが分かります。特に、以下の二人に与えられた能力は際立っていました。

(1) ユダ部族の「ベツァルエル」(בְּצַלְאֵל)

●主の幕屋で使われるすべてのものを巧みに設計し、また教える力を与えられた人物がいます。その人物の名前はユダ部族の「ベツァルエル」(בְּצַלְאֵל)です。神である主は彼を名指しで召し出し、知恵と英知と知識とあらゆる仕事において、神の霊を満たされました。そのようにして幕屋建造というプロジェクトを成し遂げさせたのです。

●「ベツァルエル」(בְּצַלְאֵל)とは、前置詞の「ベ」(בְּ)と「影(陰)」を意味する名詞の「ツェ―ル」(צֵל)、そして「神」を意味する「エール」(אֵל)の合成語です。したがって、その名前は、「神の陰に(いる者)」という意味になります。詩篇91篇1節に「いと高き方の隠れ場に住む者 その人は、全能者の陰に宿る」とあります。「全能者の陰に」という部分が「ベツェール・シャッダイ」(בְּצֵל שַׁדַּי)で、「神」を表わす「エール」(אֵל)が「全能者」を表わす「シャッダイ」になっているだけです。神の陰にいる者、全能者の陰に宿る者こそ、「ベツァルエル」であり、イェシュアの型だと言えます。

●しかも、彼は「ユダ部族に属するウリの子」なのです。「ウリの子」(「ベン・ウーリー」בֶּן־אוּרִי)の「ウーリー」の語源は、「光を放つ」を意味する動詞の「オール」(אוֹר)であり、その「ウリの子」が「ベツァルエル」とするなら、それは「光を照らす神の陰にいるもの」という意味になります。「陰(影)」が存在するためには、「光」が存在しなければなりません。ということは、「ウリの子ベツァルエル」は、本体である「光」と「影」とは切っても切れない関係にあることを示唆していると言えます。ヨセフが大工であることとその息子イェシュアも大工であるという関係の中に、神の家を建てるという御父と御子の関係の類比が写し出されているとも言えます。

(2) ダン部族の「オホリアブ」(אָהלִיאָב)

●「オホリアブ」とは「父の天幕、父の幕屋」という意味で、ユダ部族のベツァルエルを助けるように任命されています。彼はアヒサマクの子です。「アヒサマク」(=「アヒーサーマーフ」אֲחִיסָמָךְ)とは「兄弟を支える」という意味で、まさに「オホリアブ」はイェシュアを支える弟子たちを代表しています。神は彼にもすぐれた知恵を授けられました。このような存在として、イェシュアは弟子たちを選ばれたのでした。

2. 家を建て上げる大工(חָרָשׁ)に与えられる特別な聖霊の賜物

【新改訳2017】出エジプト記31章3~5節
3 彼に、知恵と英知と知識とあらゆる務めにおいて、神の霊を満たした。
4 それは、彼が金や銀や青銅の細工に意匠を凝らし、
5 はめ込みの宝石を彫刻し(חֲרֹשֶׁת)、木を彫刻し、あらゆる仕事をするためである。

●ちなみに、ベツァルエルに与えられた「知恵」と「英知」と「知識」と、メシアに与えられる「知恵」「悟り」「知識」を比べてみると、同じものが与えられることが預言されているのです。
ベツァルエルには
「知恵」(「ホフマー」חָכְמָה)と「英知」(「テヴーナー」תְבוּנָה)と「知識」(「ダアット」דַּעַת)、

メシアには(【新改訳2017】イザヤ書 11章2 節)
「知恵」は「ホフマー」(חָכְמָה)、「悟り」は「ビーナー」(בִּינָה)、「知識」は「ダアット」(דַּעַת)

●異なっているのは、「英知」(「テヴーナー」תְבוּנָה)と「悟り」(「ビーナー」בִּינָה)です。しかしこれは同じ語幹「ビーン」(בִּין)から派生した語彙で、同義と考えることができます。これらは、神の家(幕屋)を建てる上でなくてはならない、必要不可欠な聖霊の賜物だったのです。

●それにしても、神の霊に満たされた「ベツァルエル」の「知恵(「ホフマー」חָכְמָה)と英知(「テヴーナー」תְּבוּנָה)と知識(「ダアット」דַּעַת)」はまさに「すばらしい」の一言です。特に、貴金属や宝石の細工,木の彫刻,建築,木工などにすぐれており、また、そうした技能を教えるすぐれた教師でもありました。このことは、イザヤ書11章2節で預言されたように、やがて「知恵」と「悟り」と「知識」を与えられて、主の家を建てることになるメシアなるイェシュアの型となった人だということです。

ベアハリート 

●今回、子どもから質問されるまで、私はイェシュアの仕事が大工であったということに、それほど関心を持っていませんでした。生活する上で必要な仕事の一つであり、たまたまヨセフが大工の仕事をしていたことで、長兄のイェシュアも同じ大工の仕事をしていた程度に考えていました。しかし、そこにも、神の戦略はあったのです。イェシュアの日常の仕事にも、やがて神の究極の家を建て上げるという神の深い意図が隠されていたのです。

2019.10.19


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