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死刑の宣告

No.15. 死刑の宣告

【聖書箇所】マタイ27:15~26、マルコ16: 6~15、ルカ23:13~25

ヨハネ18:39~19:16

1. 目測が外れたピラト

  • ローマの総督ピラトのもとに送り返されたイエスを釈放しようとするピラトは、祭司長たちと指導者たち、および民衆を呼び集めて、二度目の無罪を主張します。ルカ23:13~15節にはこうあります。「あなたがたは、この人を、民衆を惑わす者として、私のところに連れて来たけれども、私が・・取り調べたところ、あなたがたが訴えているような罪は別に何も見つかりません。ヘロデとても同じです。・・見なさい。この人は死罪に当るようなことは、何一つしていません。だから私は、懲らしめたうえで、釈放します。」と。三度目の主張も、「あの人がどんな悪いことをしたというのか。あの人には死に当る罪は、何も見つかりません。だから私は、懲らしめたうえで、釈放します。」(ルカ23:22)とあります。
  • いずれも、ピラトの言う前半の部分は「罪は何一つない」ということですが、分からないのは後半の部分の「だから私は・・・」の部分です。なぜピラトは、イエスを懲らしめた上で、釈放しますといったのでしょうか。無罪であるなら、懲らしめる必要はないはずです。おそらく、「イエスを懲らしめる」とは、具体的に鞭打ちのことを意味していたであろうと思います。鞭打ちはそれだけでも恐ろしい懲らしめであり、それを見ればイエスの死刑は要求しないだろうというピラトの目測があったかもしれません。しかしその目測もピラトは当てが外れてしまいます。ピラトにとってはますます自分の予期しない方向に事が運んで行くのを見て恐ろしくなったと思います。

2. ピラトの弱みにつけこむ祭司長たち

  • ユダヤの指導者たちはピラトの弱みを良く知っていました。ピラトの弱みとは、民衆が暴動を起こすことでした。もしそうなれば、行政上の不手際の責任を問われ、即刻、総督としての地位を降ろされかねませんでした。彼らはその弱みをうまく突きました。ユダヤの指導者たちからうまくたきつけられ、扇動された民衆はピラトの言うことに全く耳を貸さず、「バラバを釈放しろ」と主張し続けます。そこでピラトが「では、イエスを私にどうせよというのか。」と尋ねたことは、ピラトにとって後戻りできない発言となってしまいました。民衆はピラトのことばに誘発されて「十字架につけろ」と大声で叫んだのです。そして民衆の要求の声の方が勝った、と聖書は記しています。
  • もうひとつピラトを恐れさせたユダヤ人の言葉があります。それはヨハネの19:12です。「もしこの人を釈放するなら、あなたはカイザルの味方ではありません。自分を王だとする者はすべて、カイザルにそむくのです。」 この発言はピラトの恐れを決定づけ、自己保身のゆえに、不本意にも群衆の機嫌をとるためにバラバを釈放し、イエスを十字架につける許可を与えると言う不正を犯すことに足を踏み出してしまいました。
  • ピラトにとって、自分の地位を投げ打ってまでイエスの無罪を主張する裁量はありませんでした。悪意の流れを食い止める堰(せき)は一気に崩れ去りました。ピラトは彼らの要求通り、死刑を宣告してしまいました。

3. ピラトは私たちの型

  • ある意味ではピラトは気の毒な人と言えます。巧妙に仕組まれたユダヤ当局の執拗な要求に脆くも崩れたのです。日本のキリシタン時代の踏み絵を踏まされた感じがします。ピラトは正義という踏み絵を踏みました。自分を守るために。ピラトは私たちの人間にとってのひとつの型です。ピラトを批判できる者が果たしているのでしょうか。もし自分がピラトの立場にいたとしたらどうしただろうかを考えなければなりません。
  • ユダヤ人たちがイエスを死刑にするようしきりに総督に訴えたことが、イエスを殺したのはユダヤ人であるという定説となり、後にのヨーロッパ・キリスト教社会において、ユダヤ人に対する差別、迫害へとつながっていきます。しかし、この理解は正しくはありません。異邦人のピラトも、脅迫されたとはいえ、イエスを十字架につけた責任から免れることはできません。
  • 結果的に「ユダヤ人も異邦人も」共に―聖書では人類全体を表わします。そして、そこに私自身も含まれています。この範疇から除外される者はだれひとりとしていませんー、イエスを十字架に追いやったのです。ユダヤ人たちはイエスに対する嫉みによって、ピラトは自己保身からイエスを死に定めたのです。その罪から免れる者はだれもいないことを心に刻みたいと思います。

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