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十字架の刑に引き渡されたイェシュア

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15. 午前7時~午前8時 十字架の刑に引き渡されたイェシュア

【聖書箇所】
マタイの福音書27章15~26節、マルコの福音書15章6~15節
ルカの福音書23章13~25節、ヨハネの福音書18章28~40節, 19章4~16節

ベレーシート

  • ここでの聖書箇所(四つの福音書)の最後の節は一様に、ピラトがイェシュアの無罪を訴え続けたにもかかわらず、十字架につけるために彼ら(イェシュアを告発した者たち)に「引き渡した」ことを記しています。「主の受難24」-No.12にも記したように、「引き渡す」という動詞「パラディドーミ」(παραδίδωμι)は「売る」「売り渡す」「裏切る」とも訳されます。これまでイスカリオテのユダが大祭司カヤパに「引き渡し」、大祭司カヤパはローマの総督ピラトに「引き渡し」、そして総督ピラトは「告発者たち」に「引き渡し」ました。それはイェシュアを告発する者たちの要求どおり、十字架につけるために「引き渡した」ことを意味します。
  • 「パラディドーミ」(παραδίδωμι)は今回の聖書箇所において以下の箇所で7回使われています。

マタイ(27:18, 26)、マルコ(15:10, 15)、ルカ(23:25)、ヨハネ(19:11, 16)

イスカリオテ・ユダ大祭司カヤパ総督ピラト告発者たち

  • イェシュアが十字架につけられるために、「引き渡される」受難の方向へと導かれていきます。そして、ここに登場する者たちはみな、周到に計画された神の救いのドラマの駒にすぎません。すべてが偶発的なことではなく、起こるべくして起こっているのです。

1. バラバの赦免(釈放)をピラトに求めた群衆

  • 多くのユダヤ人がエルサレムに集まる過越の祭りには、ローマ総督が群衆の望む囚人をひとりだけ赦免するという慣例があったようです。これは多分に政治的目的で、だれがこの国を治めているのかを民衆にアピールするものです。ピラトはバラバか、それともイェシュアか、どちらを釈放してほしいかと群衆に尋ねています。
  • バラバという人物の名前にどのような意味が隠されているのでしょうか。ヘブル語で表記すると、バラバは(בַּר־אַּבָּא)となり、「バル・アッバー」、すなわち「父の子」という意味があります。なにゆえにこのような名前がついたのでしょうか。もしかすると、「アバ」と呼ばれた抵抗運動の指導者がいて、その息子が「バラバ」であったのかも知れません。ちなみに彼も当時の熱心党員です。熱心党は武力をもってローマに抵抗する政治的勢力でした。またバラバの本名は、「バラバ・イェシュア」であったようです。それゆえ、新共同訳はそれを受けて、「そのころ、バラバ・イエスという評判の囚人がいた。」と訳しています。新改訳は「バラバ」とだけ訳しています。こうなると次の節がとても興味深くなります。

【新共同訳】マタイ27章17節
ピラトは、人々が集まって来たときに言った。「どちらを釈放してほしいのか。バラバ・イエスか。それともメシアといわれるイエスか。


●ピラトの群衆に対する洒落というよりは、皮肉な語呂合わせによる台詞です。

  • ピラトの問いかけに対して、祭司長、長老たちはバラバ・イエスの釈放を願うように、群衆を「説きつけた」とあります(マタイ27:20)。その動詞は「ペイソー」(πείθω)で「説き伏せる、説得する、取り入る」という意味があります。しかしマルコでは「扇動する、けしかける」という意味の「アナセイオー」(ἀνασείω)という動詞を使っています(マルコ15:11)。後者の方が悪意のニュアンスが強い語彙です。そうした策略によって、群衆にバラバを選ばせました。

2. ピラトの買いかぶり(誤算)

  • ピラトはイェシュアに罪がないことを群衆に伝え、なんとかしてイェシュアの方を釈放しようと努力しました。しかし逆に、祭司長たちをはじめ、彼らによって扇動された群衆は、ピラトに対してイェシュアを「十字架につけろ、十字架につけろ」と激しく要求します。この「十字架につけろ」というフレーズは、マタイ、マルコ、ルカにそれぞれ2回、そしてヨハネには3回あります。ちなみに、マルコ、ルカ、ヨハネの「十字架につけろ」は、命令形アオリストです。ピラトに対して命令しています。しかしマタイの「十字架につけろ」は命令形アオリストの受動態です。つまり、イェシュアに対して「おまえは十字架につけられよ」と叫んでいるのです。いずれにしてもきわめて強い要求です。
  • それでもピラトは「私はこの人には罪を認めません」と三度目の無罪宣告をしているのです。ところが、このあたりから、ピラトの総督としての頑強さが揺らぎ始めるのです。揺らぎ始めたその理由を以下に見ることができます。すべてヨハネの独占記事の中にあります。

(1) ユダヤ人たちの死刑を求める真意を知った

●ピラトは彼らがねたみからイェシュアを自分に引き渡したことに気づいていました(マタイ27:18/マルコ15:10)が、「この人は自分を神の子としたのですから、律法によれば死に当たります。」とユダヤ人が訴えたことばによって、ピラトはますます恐れたとあります(ヨハネ19:8)。ピラトはなぜ恐れたのでしょう。それはイェシュアを訴える「ローマにとって危険人物だ」という告発は建前の口実であり、本当は、ユダヤ人たちの宗教的な問題を自分を用いて通そうとする彼らの強い力を感じたからではないかと思います。ピラトはいわば俗なる部分(政治的な面)における責任を持っている人物で、その彼が政治的な意味においてイェシュアの無罪を通そうとしているのですが、ユダヤ当局の本音はこれを越えて聖なる部分(宗教的な面)の問題を群衆の力で通そうとしているのです。

(2) 脅迫のことば

●ユダヤ人はピラトを「もしこの人を釈放するなら、あなたはカイザルの味方ではありません。自分を王だとする者はすべて、カイザルにそむくのです」と脅迫します(ヨハネ19:12)。そして最後の究め付けは「カイザルのほかには、私たちに王はありません」ということばです。これはユダヤ人にとって神に対する冒涜に当たることばです。なぜなら、ユダヤにおいては、真の王は神以外にないからです。イェシュアを殺すためにはなりふり構わぬという態度です。

(3) イェシュアのピラトに対することば

●これはヨハネの19章10~11節にあることばです。
ピラト「私にはあなたを釈放する権威があり、また十字架につける権威があることを、知らないのですか。」
イェシュア「もしそれが上から与えられているのでなかったら、あなたにはわたしに対して何の権威もありません。

●ここに語られているイェシュアのことばの意味は何でしょうか。
ピラトは自分にはイェシュアを釈放することも、十字架につけることもできると言っています。しかし、それはピラトの買いかぶりなのです。イェシュアのことばは、ピラトがこの問題を解決する権威(力)を神から与えられてはいない、ピラトができることはただローマ法に従ってイェシュアを無罪だと主張することだけだという意味です。

●イェシュアが真のメシアであるならば、十字架は神が定めた道(みこころ)であり、たとえ、ピラトが法で無罪を訴えたとしても無力であるのです。もし十字架の死が回避されたとしたら、イェシュアはメシアではなかったことになるのです。だれにも止められない定めなのです。その証拠に、ピラトは法による無罪を訴えながらも、ユダヤ人の脅迫によって屈伏し、結果的にはイェシュアを十字架につけるために告発者たちが求めたように引き渡さざるを得ない運命にあったのです。

●ちなみに、ピラトの心が揺らぎ始めたとき、ピラトはユダヤ人を恐れ、彼らにこびるようなパフォーマンスをし始めます。つまり、イェシュアを引き渡す前に、無実と信じながらも、むち打ちをしていることにそれが表わされています。


3. イェシュアの周辺に登場する人物に見る人間の罪

  • イェシュアの周りには以下の人々が登場しています(今回の聖書箇所の範囲)。

祭司長たち(マタイ27:6/マルコ15:10,11/ルカ23:13/ヨハネ19:6,15)
指導者たち(ルカ23:13)
長老たち(マタイ27:20)
役人たち(ヨハネ19:6)
総督ピラト(マタイ27:17,18,19,22.23,24,26/マルコ15:6,8,9,10,12,14,15/
ルカ23:13,20,22,24/ヨハネ19:4,5,8.10,12,13,.14,15,16)
ピラトの妻(マタイ27:19)
群衆(マタイ27:15,20,24/マルコ15:8,11)
民衆(マタイ27:25/ルカ23:13,14)
バラバ(マタイ27:16,17,20,21,26/マルコ15:7,15/ルカ23:18,19/ヨハネ18:40,40)

  • イェシュアを告発する者たちの「ねたみの罪」、ピラトと彼の妻の「自己保身の罪」、これらの罪は別々のものではなく、根は一つです。それは「恐れ」という感情です。「恐れ」は神から離れた人間が内に持っている根元的罪の実です。この罪によって、神の御子イェシュアは十字架の死に向かうように神が定めておられるのです。なぜなら、その十字架の死によってすべての人間の罪の贖いがなされるためです。
  • 今回ほど、人間の暗やみを描き出している場面は他にありません。すべての登場人物が神の救いのドラマのなんらかの役割を果たしているかのようです。そしてそれを知った私たち自身もその中のひとりなのです。

2015.3.25


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