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ローマへの旅(1) カイザリヤからマルタ島ヘ

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42. ローマへの旅(1) カイザリヤからマルタ島ヘ

【聖書箇所】 27章1節~44節

ローマの旅(1)※.JPG

ベレーシート

  • カイザルに上訴したパウロはローマへ護送(移送)されます。1節に「さて、私たちが船でイタリヤへ行くことが決まったとき」とありますから、当然、ここにはルカも同行しています。27章に描かれているような部分は、もし同行していなかったとしたら、到底、書き記されることはなかったと思われるほど驚くほど詳細なです。
  • カイザリヤから出発して、ローマに着くまでの旅が克明に記されています。単なる移送の旅の記録ではなく、ここには「波乱に満ちた神の導きのドラマ」とはまさにかくなるものかと思わせられる内容です。

画像の説明

1. さまざまな「風」に翻弄される船旅

  • エルサレムで捕らえられたパウロに、主は「勇気を出しなさい。あなたは、エルサレムでわたしのことをあかししたように、ローマでもあかしをしなければならない。」(使徒23:11)と言われた神のご計画は、その後もずっと通奏低音のようにパウロの歩みの中に響いています。
  • ユリアスという百人隊長の護衛のもとに他の囚人とともにパウロは、アジアの沿岸の各地に寄港する船に乗り込みます。今日の旅とは違って、船はのんびりと各地の港に寄港しながら進んでいきます。最初の船の行先は「アドラミテオ」(2節)とあります。そこはおそらく「ミラ」という港と思われます。そこで一行はイタリヤ行の船に乗り換え、クレネ島の「良い港」と呼ばれる所に寄港します。帆船のために、その航行の日程もそのルートも「風」によって影響を受けることは致し方がありません。
  • 27章にはさまざまな風が出てきます。「向かい風」あり、「追い風」あり、そして「暴風」ありです。風に人間が翻弄されている様が見えます。

    (1) 「向かい風」(4節)
    「向かい風」のために、船の進みは遅く難航したようです。ここでの「向かい風」とは、「逆らっている風(複数)」です。ここまでは比較的にスムーズ進んでいると思われた旅も、「向かい風」で一向に先にすすめないという状況です。なかなか思うように事が運ばない、向かい風と戦いながら、やっとのことで、「良い港」と呼ばれる港に着きます。ところが折り悪く、時期的に長期の航行をするのは危険な季節となっていました。

    パウロはかつてこの海域を伝道旅行のために何度も行き来していたため、この季節の航海の危険をよく知っていただけでなく、「難破したことが三度あり、一昼夜、海上を漂ったこと」を経験していたようです(Ⅱコリント11:15)。しかし、百人隊長はパウロの忠告を無視しました。その理由は、早くローマに移送して自分の任務を終えたいと考えていたでしょうし、パウロの忠告よりも航海士や船長の説得に耳を傾け、常識的に物事を判断しました(結果的には、この布石も神の導きにおいて重要でした)。

    (2) 「追い風(穏やかな南風)」(13節)
    「良い港」と呼ばれる港は、冬を過ごすのには適していない場所だということで、同じクレテ島の「ピニクス」(フェニクス)で冬を過ごそうということになり、そこへ「おりから、穏やかな南風が吹いて来た」ことで、人々はみなこの時ばかりと錨を上げて航行したのでした。まさに絶好の航行日和が訪れたと思ったのです。「今こそチャンスだ、出発しよう」と判断したのです。ところが・・それは束の間でした。

    私たちが往々にして失敗するのは「穏やかな南風」に従う時です。その時は有頂天になり、すべて見えるもので判断します。「向かい風」の時のような慎重さが見失われるのです。

    (3) 「ユーラクロンという暴風」(14節)
    まもなく「ユーラクロンという暴風」が吹き始め、船はその風に巻き込まれ、吹き流されていきます。何の兆候もなく、突然に天候が変わり、陸の方から、日本でいう大型「台風」が襲ってきたのです。あっという間に、船は沖へ沖へと流されていきます。積み荷を捨て、船具を捨てましたが、その甲斐なく、荒れ狂う激しい嵐になんと二週間近くも翻弄されていきます。聖書は記しています。「私たちが助かる最後の望みも今や断たれようとしていた」(20節)と。

    ここは、だれかの人生を「風」にたとえて象徴的に描いたのではと思わせる箇所です。「生きていくの楽じゃない」「どうしてこんなことが起こるのか」・・さまざまな風に翻弄されて右往左往としている人間の姿を思い起こさせます。しかし、ルカはそうした絶望の状況の中で、ただ一人、毅然とした態度を取り続けたパウロの姿を描いています。この27章はまさにそうしたパウロの姿を浮き彫りにしようという意図をもって書かれている感があります。


2.  望み得ないときに「元気を出す」ということ

  • 使徒の働きの27章には、三度「元気を出す」ということばが使われています。私たちも良く使うことばです。挨拶用語としての「お元気ですか」、別れの時の「お元気で」、失望している人に「元気を出しなさいよ」とか、逆に「元気をもらいました」とか・・などなど。しかし、この「元気」ということばはとんな意味でしょうか。クリスチャン作家の三浦綾子氏は、元気とは「生きることへの意欲」であると定義づけています。

【新改訳改訂第3版】使徒の働き27章
(1) 22節
使 27:22 しかし、今、お勧めします。元気を出しなさい。あなたがたのうち、いのちを失う者はひとりもありません。失われるのは船だけです。

(2) 23~26節
23 昨夜、私の主で、私の仕えている神の御使いが、私の前に立って、
24 こう言いました。『恐れてはいけません。パウロ。あなたは必ずカイザルの前に立ちます。そして、神はあなたと同船している人々をみな、あなたにお与えになったのです。』
25 ですから、皆さん。元気を出しなさい。すべて私に告げられたとおりになると、私は神によって信じています。
26 私たちは必ず、どこかの島に打ち上げられます。」

(3) 34~36節
34 ですから、私はあなたがたに、食事をとることを勧めます。これであなたがたは助かることになるのです。あなたがたの頭から髪一筋も失われることはありません。」
35 こう言って、彼はパンを取り、一同の前で神に感謝をささげてから、それを裂いて食べ始めた。
36 そこで一同も元気づけられ、みなが食事をとった。


※22, 25節の「元気を出す」は動詞の「ユースメオー」(εύθυμέω)で、他にヤコブ書5章13節(ここでは「悲しんでいる」人に対比して、「喜んでいる」で使われています。)の合わせて3回しか使われていません。36節は名詞の「ユースモス」(εύθυμος)で、ここ1箇所だけです。

  • 失意の中にある人々を元気づける力をパウロは与えられていました。パウロの忠告を無視して出帆した船は、暴風に遭い、いつ船が沈むかわからないという恐怖のどん底に陥れられました。しかしパウロは、そうした絶望的な状況の中にあって、人々を力づけているのです。「元気を出しなさい」ということばの深意を感じさせられます。
  • ここでの「元気」という語彙を換言するなら、使徒パウロが良く使っている「慰め」という語彙に近いように思います。多くの災難を経験しながらも、パウロは主の慰めを与えられただけでなく、その慰めを人々に与える者とされているのです。以下がテキスト(Ⅱコリント1章3節~10節)にそのことがより詳しく記されています。

    【新改訳改訂第3版】Ⅱコリント 1章3~10節

    3 私たちの主イエス・キリストの父なる神、慈愛の父、すべての慰めの神がほめたたえられますように。
    4 神は、どのような苦しみのときにも、私たちを慰めてくださいます。こうして、私たちも、自分自身が神から受ける慰めによって、どのような苦しみの中にいる人をも慰めることができるのです。
    5 それは、私たちにキリストの苦難があふれているように、慰めもまたキリストによってあふれているからです。
    6 もし私たちが苦しみに会うなら、それはあなたがたの慰めと救いのためです。もし私たちが慰めを受けるなら、それもあなたがたの慰めのためで、その慰めは、私たちが受けている苦難と同じ苦難に耐え抜く力をあなたがたに与えるのです。
    7 私たちがあなたがたについて抱いている望みは、動くことがありません。なぜなら、あなたがたが私たちと苦しみをともにしているように、慰めをもともにしていることを、私たちは知っているからです。

    8 兄弟たちよ。私たちがアジヤで会った苦しみについて、ぜひ知っておいてください。私たちは、非常に激しい、耐えられないほどの圧迫を受け、ついにいのちさえも危くなり、
    9 ほんとうに、自分の心の中で死を覚悟しました。これは、もはや自分自身を頼まず、死者をよみがえらせてくださる神により頼む者となるためでした。
    10 ところが神は、これほどの大きな死の危険から、私たちを救い出してくださいました。また将来も救い出してくださいます。なおも救い出してくださるという望みを、私たちはこの神に置いているのです。


2013.10.24


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