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ローマにおけるパウロの二年間の生活

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44. ローマにおけるパウロの二年間の生活

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【聖書箇所】 28章16節~31節

ベレーシート

  • 昨年(2012.12.20)から始まった「使徒の働き」を味わう、その最終回を迎えました。今回は、ローマに行き着いたパウロがそこで過ごした二年間のことが記されています。
  • パウロはこれまで何度もローマに行くことを願っていましたが、妨げられて行くことができなかったようです(ローマ1:10~13)。そして今や、パウロは神の不思議な導きによって、世界の中心地であるローマにやって来ているのです。しかも警備付きで、さらに自分の費用を使うこともなくです。
  • パウロの働きにおいて、彼がローマ市民権をもっていたことは思っても見ない破格の待遇を受けることになります。ローマの滞在先においても、他の囚人とは別格の扱いでした。つまり一人で住むことが許されています。番兵つきではありますが、決して「獄中生活」ではありません。自分では自由に出かけることはできませんでしたが、パウロの借りた宿に人が自由に出入りすることができました。
  • 使徒の働きの最後の箇所から私たちはいったい何を学ぶことができるでしょうか。今回も原文のギリシア語からの情報を通して、そのヒントを得たいと思います。原文の構文と語彙、その文法的な情報を得ることによって、翻訳では見えなかったことが見えてくるのです。

1. 自分の同胞のユダヤ人にまず福音を伝えようとするパウロの姿勢

  • パウロはかつてエペソからローマにいる信徒に手紙を書いています。それが「ローマ人への手紙」です。その1章に「私としては、ローマにいるあなたがたにも、ぜひ福音を伝えたいのです。・・・福音はユダヤ人をはじめギリシャ人にも、信じるすべての人にとって、救いを得させる神の力です。」(ローマ1:16)と記しているように、「ユダヤ人をはじめ」、つまり、「まずユダヤ人に」だったのです。この優先順位は生涯変わることのないパウロの姿勢であり手本でした。
  • メシアニック・ジューであるディビット・スターン氏は「福音とユダヤ性の回復」の中で、ローマ1章16節の箇所を「ユダヤ人を特別に、異邦人にも・・」と認識すべきだとしています。それゆえ、ローマに着いたパウロは、三日後に、ユダヤ人のおもだった人たちを呼び集めています。パウロが彼らを呼び寄せたのは、単に、自分のことを彼らに弁明することではなく、むしろ「イスラエルの望み」について伝えようとしたのです。「イスラエルの望み」とは、イスラエルの救いのことであり、それがメシア・イエスによってもたらされていることを伝えることにあったのです。
  • 呼び寄せられた人々は日を改めて、さらに大勢でパウロの宿にやって来ました。それほどに広い部屋をパウロは借りていたというこです。23節の主動詞は「(繰り返して)語り続けた」(「エクティセーミ」έκτίθημι未完了)です。その主動詞の枝として、「力を込めてあかしする、証言する」という「ディアマルテゥルマイ」(διαμαρτύρομαι)と、「説得する」という「ペイソー」(πείθω)が分詞で置かれています。パウロは朝から晩までずっとモーセの律法と預言書によって説明し続けながら、「(繰り返して)語り続けた」のです。
  • にもかかわらず、結果は悲惨でした。長い時間、パウロが聖書によって説得したにもかかわらず、それを聞いていたユダヤ人の多くが信じようとしなかったようです(信じた者もいたようですが)。それゆえパウロは、預言者イザヤに語られたことばを引用しながら、ユダヤ人の心の頑なさのゆえに、救いは異邦人に送られたのだと断言しています。

2. パウロのホスピタリティ

  • パウロのローマでの二年間を特徴づける記述が最後にあります。

    【新改訳改訂第3版】
    28:30 こうしてパウロは満二年の間、自費で借りた家に住み、たずねて来る人たちをみな迎えて、
    28:31 大胆に、少しも妨げられることなく、神の国を宣べ伝え、主イエス・キリストのことを教えた。

    【新共同訳】
    28:30 パウロは、自費で借りた家に丸二年間住んで、訪問する者はだれかれとなく歓迎し、
    28:31 全く自由に何の妨げもなく、神の国を宣べ伝え、主イエス・キリストについて教え続けた。

(1) 構文について
30節と31節において、原文では以下のように動詞が五つあります。
30節―「住む」「迎えた」「訪ねて来る」
31節―「宣べ伝える」「教えた」

アポデコマイ.JPG
  • しかし主動詞は、30節の「住んだ」と「迎えた」の二つのみ。あとはそれを補足する分詞です。ここで重要なのは、「迎えた」(新改訳)「歓迎した」(新共同訳)という動詞です。「迎えた」「歓迎した」は未完了中態で、「~し続けた」のニュアンス。つまり、人々を歓迎し続けたことを意味します。

(2) 主動詞の「アポデコマイ」
主動詞が原文によって何であるかを把握することが重要です。翻訳ではそのことが見えてきません。30節の「迎える」と訳された動詞の原語「アポデコマイ」(άποδεχομαι)は、新約聖書では以下のように7回使われています。

① 受け入れる、迎える
ルカ9:11・・・イエスが群衆を迎えた。
使徒28:30・・・パウロは自分のところに来る訪問者を迎えた。
② 喜び迎える、歓迎する
ルカ8:40・・・群衆がイエスを喜び迎えた。
使徒21:17・・ エルサレムの兄弟たちはパウロを喜んで迎えた。
③ 近づくことを許す、面接する
使徒18:27・・ブリスキラとアクラがコリントの弟子たちにアポロを歓迎するようにと頼んでいる。
④ (賛成して心に)受け入れる、信じる、同意する、認める
使徒2:41・・・人々は使徒たちのことばを受け入れた。
使徒24:3・・・あらゆる面で、また至る所で認めている。

ご覧のように、「アポデコマイ」(άποδεχομαι)は、ルカ文書の特愛用語であることが分かります。

ヒュポデコマイ.JPG
  • ちなみに、この「アポデコマイ」の類語として、「ヒュポデコマイ」(ύποδεχομαι)があります。「ヒュポデコマイ」は、「屋根の下に」という意味の接頭語の「ヒュポ」(ύπο)と、「迎える」を意味する「デコマイ」(δεχομαι)の合成語です。新約聖書では4回のみ、客として自分の家に迎え入れることを意味します。

    ①ルカ10:38
    マルタはイエスを喜んで(自分の家に)迎え入れた。
    ②ルカ19:6
    ザアカイはイエスを大喜びで(自分の家に)迎えた。
    ③使徒17:7
    テサロニケのヤソンはパウロの一向を家の中に迎え入れた。
    ④ヤコブ2:25
    旧約のラハブは、ヨシュアの二人の斥候を家の中に招き入れ、そして逃がしてあげた。


3. パウロの「受け入れる、歓迎する」ことが意味すること

  • 今日、人々が教会に訪れるということは、以前に比べると、きわめて少なくなっているように思います。インターネットを通して、教会の様子やメッセージを見たり、聞いたりできる時代です。教会という場所に来なくても、世界のどこからでもアクセスできる時代です。聞きたいことがあるならば、メールで問い合わせることができます。相手の顔が見えないだけに、かかわりもきわめて希薄です。そうした時代において、「受け入れる、歓迎する」とはどういうことを意味するかを考える必要があります。
  • 30、31節のみことばの主動詞は、パウロが訪ねてくる人たちをみな「迎えた」のです。一期一会の出会いかもしれないそんな状況の中で、パウロが人々に神の国のことを伝え、イエスがメシアであることを伝えるために、最も心砕いたのは、「迎える、歓迎する」ということでした。
  • 現代の言葉で表現するならば、一期一会における「ホスピタリティ・マインド」(Hospitality Mind)、あるいは「ホスピタリティ」(Hospitality)です。パウロは自ら出て行って人とかかわることのできない状況にいました。そんな彼が最も大切にしたのは、みな「歓迎する」ことでした。

4. 【具体例として、メールによる問い合わせにどう対応するか】

  • 匿名にしておきますが、以下のような質問がメールで来ました。

    聖書の疑問について、教えてください。

    イエスの語った「ある金持ちと貧しいラザロのたとえ話」には、死んた後に行く場所についての言及があります。』と説明されています。金持ちとラザロの話しが、本当に死後の世界のことについて書かれているのでしょうか。「ハデス」から「アブラハムのふところ」が見えるようなところが、本当に死後の世界でしょうか。もし、先生が死んだのち、「アブラハムのふところ」から「ハデス」で愛する人が苦しんでいるのを見たなら、本当に平安があるのでしょうか。この話しは、死後の世界のことではないと言われる牧師もいます。同じ神を信じていると言いながら、どうして全く違った解釈になるのでしょうか。

  • これに対する返答が求められています。一期一会のやりとりで終わってしまうかもしれません。ほとんどがそうです。ですから、気を使いますが、現代は否応なく迅速、かつ誠実な対応が求められている時代です。

この質問に対する私の返答は、以下のとおりです(PDFファイル)。


2013.11.7


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